役場のカウンターを挟んで、先程からギルとアカリは一つの問答を繰り返していた。

「ねー。教えてよ。あたしとギルの仲じゃない!」
「嫌だ」
「誰にも言わないから!ねっ?」

可愛らしく小首を傾げるアカリ。その仕草を、効果を、彼女自身がどれだけ理解して行っているのか知らないが、少年に対する効力はそれなりに大きいものであった。

話題は、少年の好きな人のことだ。
ただし今は少しばかり厄介な展開になっていた。

どうして知りたいのかと彼は問うた。返答によっては素直に吐こうと思っていた。
けれど、アカリはにっこり微笑んでこう言ったのだ。

―――ギルのこと、好きな友達がいるから、知りたくて

思い返してギルは嘆息する。
こんなことなら一番最初、問われた際に、さっさと言ってしまえばよかった。
けれど多分に残された羞恥が少年にそうさせることを許さなかった。

「ねぇ。そんな困るってことは、つまりってことだよね」
「…、」
「いるんでしょ?好きな人!」
「……ああ」
「やっぱりいるんだ!」

アカリの顔が輝く。ギルはどこか苦々しい思いで少女を見た。

「ああ。いる。―――いるさ」
「へぇー。相当好き、って感じだね。で?誰、誰?」

無意識で、無邪気で、無防備に、アカリは心をはじかせるけれど。
それがギルのそこかしこを痛ませているなんてことは露ほども理解していない。
だから少年は行動した。それは半ば自棄で、けれど彼に必要な思い切りだった。

「言ったら、抱きしめてもいいのか」
「え?」
「言えば、僕はお前を抱きしめてもいいのか」

ギルの声音は硬質だ。
それまで陽気だった少女のかんばせが、初めて顰められて。

「…え…?」

二回目の疑問符は、激しい戸惑いを孕んでいた。


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