一人が好きなくせに一人ぽっちを嫌う。 そんな厄介な女性が気を許す、孤独を紛らす対象が、青年グレイだった。 『別れちゃったぁ』 「…クレアさん、酔ってるでしょ」 今日も更けこんだ夜の静けさを、携帯の着信音が貫いた。グレイは刷り込まれたように即座に反応。実際、すぐに出ねば憤慨してしまうクレアによって、遠まわしに刷り込まれてしまったのだろう。 耳に携帯を押し当てた瞬間、聞こえたのは陽気な声音の、けれど内容は全然陽気ではない、報告。これも、いつもと言えばいつものことで。 孤高で見目の美しいクレアには大抵、懇意の男性がいた。 けれどどれもが短命で、決まって彼女は振られる側だった。毎回その理由は、決まっている。 『「きみのことがわからなくなった」だってぇー。またこれぇ?』 「そう、ですね……またですね」 『じゃー最初は判ってたのかって感じだわぁ』 きゃらきゃらとクレアは笑った。2つも年上の、普段はしっかりとした女性だ。しかしながらこういった内容の話の時には、グレイはどうしてもクレアに危なげを感じてしまう。 ところが青年の心配など他所に、クレアはあっさりと次の恋人を作ってはグレイに報告をしてくる。そんなことがもう幾度も繰り返されて、定着した今の不思議な関係があった。 いつものことだ。 吐き出すだけ吐き出して、さっぱりした声でクレアが電話を切るまで。 グレイはただ、はい、そうですね、と彼女の言葉を受け止める。 いつものことだ。今回もそれで終わるはずだったのに。 『もう……疲れたなぁ』 「…はい?」 『あたしを見つめてくれる人、なんて…いないんだ』 初めての展開。 けれどクレアの声は、内容の重さに反して、やはりきゃらきゃらと明るかった。 グレイの背筋がぞくりとする。鳥肌が立った。 この人はなんて、脆い。 「…クレアさん」 『なぁにぃ?』 「俺、今からあなたのところ行きます」 『…は?あたしが、いるとこ、判るの』 「さぁ。でも行きますんで」 『そん』 ブツリ、電話を切って。煩わしいので、電源も落とした。 思えばクレアの電話をこちらから断つのは初めてな気がする。 見つめてくれる人がいない、なんて。馬鹿なことを言わないでほしい。そんなの、単に。 「あなたが、気付いてないだけだ」 だからもう―――ただの可愛い後輩で終わりたくはなかった。 BACK |