君は拒絶的だ。おまけに否定的ときてる。
なら拒絶も出来ない、否定だってさせやしないほどの大事を、オレは君に振りかけてやろうと思ってるんだけど、いいかな。


「…て、やっぱ、そういうワケにはいかないよな」
「なに?なんのはなし?」
「んー?好きなひとの話!」
「…そ」
「知らん振りすんなよ」
「してない」
「嘘だ。さっき流そうとしたろ?」

野の草に寝そべり青空を仰いでいたルークは、傍らに同じく横になっているアカリと、向き合うよう体勢を変えた。さらりと風に揺れた少女の髪が白い頬を流れる。

「してないったら」
「そっ。じゃあオレの勘違いだな」

これ以上アカリの機嫌を損ねることにひとつの得もない。ルークは大人しく引き下がった。惚れた弱みというものが最大の効力を発揮するのなんて大概がこんな時だ。

「……帰らなきゃ」
「帰るのか?もう?…いつもより、早いだろ」
「今日、記念日だから。お料理作って待っててあげるの」

なんの記念日かと、決してアカリは言わない。だから青年も追及しないでいる。けれど意識の奥では知っていた。身を起こしかけた少女に覆いかぶさったことが立派な証明だった。
アカリの左手に輝く指輪が、きらりと光を反射して、存在をいやに主張する。

「ルーク」

あからさまに咎める響きを含んだ声。それでも名を紡がれることを喜びだと感じるのだから、もはや自分は末期なのだと心の片隅で青年は観念する。

「…アカリは知ってんだろ?オレの好きなひと」
「…知らない」
「そっか。じゃあ教えるから聞いてくれよ」
「知りたくないし、聞きたくないよ」

見上げるアカリの瞳は清廉だ。その清さが、今はなによりも残酷だった。
森の奥での、たった一時の逢瀬。同じ秘め事を共有しているはずなのに、穢れていくのはルークばかりだと告げられているみたいで。

「のいてくれないなら、もう、ここには来ないよ」
「…んだよ、それ」

ゆるゆると力なく、アカリから身を離す。ここでも引き下がるのはルークなのだ。
ただ相手を好きだということは、ある種、下手な約束事などよりもずっと人間を制御する。それは青年が少女に出会ってから、身をもって実感したことだった。

「じゃあ……またな」
「うん、またね」

あっさりと、後ろ髪引かれる思いもない素振りで、立ち去っていくアカリが悔しい。
いたずらにちぎった草がまばらに散り、うっすらとした水色の空に鮮やかな色合いを加えた。


わかんないわかんないわかんない。君は拒絶的だ。
しらないしらないやってない。おまけに否定的ときてる。
なら拒絶も出来ない、否定だってさせやしないほどの大事を、オレは君に振りかけてやろうと思ってるんだけど、いいかな。泣かないかな。怯えないかな。オレから離れていかないかな。
できたら笑ってほしいんだけど。

一度壊してしまってもいいかな。


「…出来るわけないのは、わかってんだ」


呟きに呼応して、切なげに空が啼いた。


BACK