立ちくらみがした。 斧の重さに身体の中心が惑ったように。 こんなことは初めてだった。 原因があるとしたら、ろくに眠っていない。ここ最近。 それだろう。 その時、めまいとは違う、何か別の力がわたしを揺らした。 引き寄せられる。温かいものに頬が当たった。 わたしの足はわたしを支えることを放棄していた。ぐらぐらぐらぐら。する。 ボアンくんがかすかに動いた。彼しか支柱がないわたしも必然的に動いた。 遠慮がちに、こわごわと肩を支えてくれていた腕に力が込められる。 もう一方の手が腰にまわる気配。迷いの色が見えて微笑ましかった。 安定した安堵感に抗いようもなく、目の前の支えにもたれかかる。 これはこれで何かまずい気がした。でも今はそこまで考えられない。 激しいめまいが続くから。 意識を溶かしたチーズみたいにどろどろにしてしまっている。 寝てないんですねと、質問ではなく確認するようにボアンくんは言う。 口を介さず、震える肺や胸から直接、わたしの耳はそれを拾った。 わずかに首だけを動かす。 うんと言いたかったのに。それさえ厳しいみたいだった。 耳にかかる彼の息が、こんな状況下でもくすぐったい。 唐突に理解した。この体勢は、状態は、多分とてつもなく、危ない。 曖昧な視界の端が、腰掛けられそうな切り株を捕らえた。 だからそこへ行きたい。行こうと思った。 少しだけ、身を離す。 と、反抗的な身体は途端にひどいめまいを起こして抗議をしてきた。 ろくに休養をとらせない精神に対する、身体のボイコットだ。 ごめん、身体。今度から気をつけるから。だから動いてくれないかな。 ぎゅっと目をつぶってやりすごそうとした。 駄目です 確固たる意思の含まれた囁きと力がわたしを引き戻す。 咄嗟に抗った。でも、年下なのにボアンくんの力は男の子だった。 動かない。動けない。動かせない。泣きたくなった。 どうして?さっきまでのおずおずとした仕草はどうしたの? 息が詰まって苦しい。それはめまいや立ちくらみの症状じゃない。 好きです 体調不良の、幻聴だと思ってくれて構いません 忘れてくださってもいいんです ただ、ぼくは、アカリさんが好きです こんな幻聴があってたまるわけない。 こんな、押し殺すような、切なげな幻聴があってたまるわけないのに。 肩を掴む力の痛さも、胸を刺す痛みも、何一つわたしは訴えられない。 憎々しい立ちくらみが、ずっと続くから。 BACK |