春色のうんざりするような 馬鹿みたいにやわらかな光と ゆらゆら揺れる黄緑の絨毯に 長い長い糸のような金色の 筋がすうっと通っていた 恐らく俺はそれを知っていて そして彼女はいつも 俺にとって触れてはならない 荘厳で謎めいた領域だったのだ 気だるそうに芽吹く ちっぽけな草花に 澄んだ金髪を絡ませて クレアは横たわり 目を閉じていた しっかりと目を閉じていた 焦がれる青色が窺えないまま ガキみたいな不安を押し隠して ゆっくりとゆったりと これが絶対的な咎で あることを自覚しながら 俺は彼女に歩み寄った 悪いのは俺ではなく 俺の行く先に寝そべる 彼女のほうなのだと 頭の中で責任を 無様に転嫁して かたわらに膝をつく 作り物めいた秀麗な顔を覗く 瞼を縁取る細い睫が 透き通るほど白い頬に 彼らのなけなしの 存在を主張するかのように 薄い影を落としている オーバーオールに包まれた肢体が この上なく極上であることを 恐らくこの町の男共は全員 口にはしないが知っている その 町の男達の羨望を一身に集める 綺麗で溌剌としていて 厭味なほどに社交的で 分け隔てのない彼女の 胸は上下してない 彼女の小さな頭の両脇に 短く揃った若草の絨毯に 俺はとんっと手をついて 桜色の唇を静かに覆った ん と クレアが声を漏らす 俺の呼気ごとすっと空気を吸い 豊かな胸を上下させた 彼女はたった今初めて 呼吸という機能を知ったみたいに ぜえぜえとあどけなく息を継ぐ 俺は益々被さって 頼りない彼女の呼吸を邪魔するように ぐっと自分の唇を押し付けた 緩慢に持ち上げられた細い腕が 俺の肩の辺りを這い回って そうしてきゅっと握りこむ 次第に安定してきたクレアの呼吸 はあと短く吐息を漏らす口唇を 名残惜しむようにことさら強く吸って 俺はようやっと彼女の唇を解放した 「なんで我慢するんだよ」 「息が出来ないなら俺んとこ来いよ」 「こんななる前にとっとと来いよ」 「じゃないとクレア」 「じゃないとクレア死ぬだろ」 「やめろよそういうの」 「そうやって息を絶つのやめろ」 濃厚なキスに鮮やかに色を変えた 小さな唇を震わせてクレアは俺を見た 判ってる 最初に裏切ったのは 彼女を振り切ったのは マリーの求愛に応えた俺のほうだ 『平気』 『わたしは平気』 『グレイなんていなくても』 『息をすることくらいできるの』 『だからやめてよ』 『こんなこともうやめて』 『わたしを救おうとしないで』 切れ切れに絶え絶えに 強がるクレアの唇を俺は もう一度強く長く塞ぐことにした BACK |