自他共に認めるおしゃべり好きなケティが、サラと楽しそうにお話しているみたいです。ちょっと近づいてみましょうか。

「で、マスターったらまたティナさんに負けちゃって」
「へぇ。今度は何の勝負したの」

どうやら二人は、最近カフェで恒例の風景となりつつある、新米牧場主と新米店長の勝負のお話をしているみたいです。
ケティは深いため息を一つついて、心底情けなさそうに吐き出しました。

「……腕相撲よ」
「また!?」
「またって言うか、ここ最近の勝負内容はずーっとそれよ!」

くるくる可愛い巻き毛を揺らしながら、ウェイトレスの訴えは続きます。

「しかもマスター、自分が勝負に負けたらお店のケーキ一つ無料なんて条件出しちゃってるものだから、いっつもティナさんはタダでケーキ食べて帰るのよ!」
「別に勝負して勝ってんならいいんじゃないの?」
「だって!あたしなんてちょっとでもつまみ食いしたら怒られるのに…」
「…はあ…、そういうもの?」

甘いものが好きではないサラにはわからない訴えを、これ以上することは無駄だと悟ったのか、さっさと愚痴を切り上げたケティは話の論点を元に戻すことにしました。

「とにかく、あたしが一番不思議なのは、どうしてマスターはあんなに腕相撲が弱いのかしら?ってことよ。だってパティシエって結構体力勝負だと思うの!あんなに非力なわけないと思うんだけど…」
「……んー。と、言うか」

細い指をあごに当て、考え込むケティを目の前に、サラの表情はどこか煮えきりません。聡いケティはすぐに気づき、ずいっと詰め寄ります。

「なによ。なにか隠してるの?」
「いや、隠してはないんだけど。あくまで推測なんだけど」

ぽりぽりと頬をかきながらサラはつぶやきます。

「それ……わざと負けてんじゃないの?」

しばらくの沈黙の後。

なんですってぇ!?という高らかな声が村に響き渡り、どこかのカフェのマスターは、重い重い調理器具を軽々持ち運びながら、小さく身震いをせずにはいられませんでした。


(だって、負けたらもう邪魔しないなんて言われちゃ、おいらが勝つわけにいかないじゃないか!)


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