最初、俺の肩をぐいぐいと押し返していた小さな拳が、段々解かれて、細い指が肩口に縋りつくようになるまでの間ずっとキスは続いた。

「ん…」

苦しげな声に、ちゅっと音を立てて唇を離す。形のいいそれは口紅を塗ったみたいな鮮やかな色になっていて、今や確実に潤みきった彼女の瞳に誘われるように再度顔を近づける。

「…望みは?」
「っえ…?」
「俺が負けたんだから、何でも聞くよ?」

くったりと壁に背を預けた彼女が気だるげに首を振る。何となく壁に嫉妬した俺は力ない身体をぐっと引いて自分の胸に押し付けた。彼女を支える大役を壁になど任せてやるものか。
脱力した柔らかな体躯が密着して、それは容赦なく俺の欲望を高めていく。

正直に言うと身体が欲しい。嗚呼、だけどその前にもっと欲しい物があった。

「……絶対、この賭けに勝って」
「うん」
「あたしを好きになれって言ってやるつもりだったのに…」
「…言ってよ」

最もその願いは彼女が口にした瞬間に叶うのだけど。



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20100530:アップ