「バカなことしてるね」

悪友が言う。実は既に何度も言われている。むっつりと黙り込みグラスを傾ける俺。
夜の酒場は適度に賑わい適度に薄暗く、ヒトの欲望を煽るのに最適な環境だった。チラチラとさり気なく遠くのテーブルに視線をやっていたら、何度目かの時に溜息が聞こえた。
むかいに座る悪友のそれ。

「そんなに気になるなら行ってくれば?」

どうやらさり気ないはずの目配せは全然さり気なくなかったらしい。

「いいよ別に気にしてない」
「いや、そういう強がりはもういいから」

盛大に平静を装ったつもりだったが不自然なかつぜつの良さでバレバレだった。

「僕はちょっと……苦手だけど、彼女もてるんでしょ」

言いよどむ仕草のところで見せ付けるように顔をしかめる悪友に悪態をつきたい気分になる。と言うか、悪い態度なら既についていた。しかし誰がお前の個人的感情を言えと。

「彼女の存在は生い立ちから存在から良くも悪くも目を惹くし」
「悪くってなんだよ」
「あ、また何か誘われてるよ……っていうかあれ?ついて行くっぽい?」

音を立てて立ち上がる俺。幸いにも酒場の喧騒にその音はすぐに融けた。
札を一枚テーブルに叩きつけて、すぐさま扉へつま先を向ける。

追うのは、背中の中ほどまである豊かな金の髪。その持ち主。

彼女はすごい。後姿でさえ俺を魅了する。

「彼女も彼女でバカなことするなあ」

見知らぬ男に手を引かれていく彼女を見やりながら呟く悪友。
俺は最後にギンッと睨み付けて言い放ってやった。

「いいんだよ。お前には判らなくて」

そういう掴みきれないところに参ってる末期の俺がいるんだから。

ごちそうさま、と受け流して悪友は虫でも追い払うように手を振った。



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20100530:アップ